−現代人と病気−

第23回 女性ホルモン療法
−更年期障害を中心に−

日時 : 平成10年6月17日(水) 午後6時10分〜午後8時
講師 : 今中 基晴 教授 (看護短期大学部)

T.はじめに
 
最近、マスコミ報道でホルモンという言葉をしばしば耳にします。医療における経口避妊薬(ピル)、ホルモン補充療法といった用語だけでなく、環境問題においても環境ホルモン、低容量ピルが取り上げられる時代となっています。
 今回は、女性ホルモンと女性の一生の係わり、そして更年期障害を中心とした女性ホルモン療法についてお話しますが、女性ホルモンに対する理解、ひいては女性に対する理解を深めて戴く一助となれば幸いです。

U.女性ホルモンとは
1.ホルモンとは
 生体におけるいろいろな臓器の活動を調節し恒常性を維持するために、いろいろなメ力ニズムがあります。神経系とともにホルモンは調節の重要な役割を果たします。古典的には、ホルモンは内分泌腺で作られ、血行を介して標的となる細胞のはたらきを調節するものと理解されています。

2.女性ホルモンとは
 
女性特有のホルモンを女性ホルモンといい、丸みの帯びたからだや生殖器・乳房といった女性らしさを形作る役割を果たします。また、骨、脂肪、血管、自律神経などのからだの基本的臓器にも作用し、その機能に重大な影響を与えています。
 代表的な女性ホルモンとして卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類があり、いずれも脳(視床下部−下垂体)からのコントロールのもとに、卵巣で作られます(図1)。天然のエストロゲンとしてエストラジオール、エストロン、エストリオールの3種類があり、合成エストロゲンとしてエチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロールなどがあります。一方、黄体ホルモンと同様の作用を持つ物質としては、天然のプロゲステロンに加えて多くの合成の黄体ホルモン剤があり、これらをあわせてプロゲストーゲンと総称します。


図1 月経周期における卵胞発育・排卵とホルモンの変化

V.ホルモンからみた女性の一生
 女性の一生は、新生児期、乳児期、幼・小児期、思春期、性成熟期、更年期、高年期、老年期と分けられます。男性とは異なり、思春期における月経の発来、更年期における月経の終了、さらには妊娠などホルモンの急激な変化と密接な関連を持って劇的な変化を遂げます。女性の性機能の推移において男性と異なる点は、40歳以降の推移です。男性では徐々に衰えるのに比ベ、女性では急激に機能が低下します。性機能は卵巣からの女性ホルモンの分泌量、卵巣の重さ、妊娠率、月経周期、排卵率、子宮の重さ、月経の量、骨塩量などさまざまな指標で表すことができます。

W.更年期障害とは
 
40歳代に入ると、排卵やホルモン分泌といった卵巣のはたらきが低下しはじめ、50歳前後になると閉経を迎えます(図2)。閉経は卵巣機能の衰退または消失によって起こる月経の永久的な停止をいい、通常、45歳以上の女性で1年間以上月経をみなければ、閉経と判断します。更年期は"性的成熟状態から卵巣機能が完全に消失するまでの期間"と定義され、ほぼ42歳頃から56歳頃に当たります。更年期は子の巣立ち、夫の定年、親の介護など、大きなイベントが相次いで起こる時期でもあります。さらに、心理的因子が絡み合って、更年期障害が生じるものと考えられています。


図2 各年齢における閉経率(1980)

 更年期障害では“ほてり”や“発汗”など、様々な不定愁訴が認められます。客観的な評価法として、クッパーマン指数や簡略更年期指数が用いられ、重症度や治療効果の判定の参考にします(表1)。また、更年期にはイライラ、不眠、抑うつ状態などの精神神経症状が出現しますが、これらは更年期障害の症状としてだけでなく、神経症やうつ病でも現れる症状ですので鑑別診断が重要となります。

表1 簡略更年期指数 (小山、麻生、1992)

症状   \   その程度(点数)

点数
@顔がほてる

10

 
A汗をかきやすい

10

 
B腰や手足が冷えやすい

14

 
C息切れ、動悸がする

12

 
D寝つきが悪い、また眠りが浅い

14

 
E怒りやすく、すぐイライラする

12

 
Fくよくよしたり、憂うつになることがある

 
G頭痛、めまい、吐き気がよくある

 
H疲れやすい

 
I肩こり、腰痛、手当の痛みがある

 

 

     

合計

 

       簡略更年期指数による自己採点の評価法
             0〜 25点:異常なし
            26〜 50点:食事・運動に注意
            51〜 65点:更年期・閉経外来を受診
            66〜 80点:長期間の計画的な治療
            81〜100点:全身機能の精密検査、長期の計画的な治療

 閉経前後には他にもエストロゲン低下に起因する種々の症状が現れてきます(図3)。自律神経失調、精神神経症状に続いて、泌尿・生殖器症状(性機能障害、尿失禁など)、その後、骨粗鬆症や動脈硬化などが発症することになります。しかしながら、健康管理の立場から考えますと、これらの疾患は閉経とともにすでに潜在しているものと理解できます。


図3 更年期・閉経前後の各種症状の発言(van Keep,1973より改変)

V.女性ホルモン療法
1.性成熟期の女性ホルモン療法

 月経周期において血中のエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンはダイナミックに変化し、これらは各臓器のレセプターに作用します。したがって、卵巣での卵の発育、排卵、それに伴う女性ホルモンの分泌は女性の性機能にとって最も重要なことといえます。つまり、視床下部−下垂体−卵巣系は排卵、月経、妊娠などの女性の生理的現象の中心といえます。
 性成熟期では多種多様な疾患に対してホルモン療法が行われています。不妊、高プロラクチン血症、多嚢胞卵巣症候群、機能性子宮出血、月経前症候群、月経困難症、子宮内膜症、子宮筋腫などが対象となり、疾患に応じた種々の治療法が選択されます。使用される薬剤としてエストロゲン製剤、プロゲストーゲン(黄体ホルモン様作用物質の総称)、両者の合剤、抗エストロゲン剤、抗プロゲストーゲン、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)製剤、GnRH製剤、抗プロラクチン剤などがあります。

2.更年期・老年期の女性ホルモン療法
 更年期障害に対して通常薬物療法が行われます。薬物療法として、女性ホルモン(エストロゲン製剤)、自律神経調整剤、抗不安剤、抗うつ剤、漢方製剤などが用いられます。しかしながら、更年期障害の原因が主に女性ホルモンの減少であることを考えますと、女性ホルモン療法が最も直接的、かつ確実な治療法であるといえます。
 女性ホルモン療法に使用されるエストロゲン製剤にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴があります。主に用いられるのは経口剤である結合型エストロゲン(プレマリンR)、エストリオール(エストリールR、ホーリンR、エストリオールR)、ならびにエストラジオール貼付剤(エストラダームTTSR)の3種類です(表2、表3)。

表2 エストロゲン製剤の適応

製剤名

プレマリン

エストラダームTTS

エストリオール

効能・効果
更年期障害
卵巣欠落症状
卵巣機能不全症
膣炎
機能性子宮出血
・更年期障害に伴う下記症状
血管運動神経症状
泌尿生殖器の萎縮症状
エストロゲン欠乏による睡眠障害
・卵巣欠落症状
更年期障害
膣炎
子宮頚管炎・子宮膣部びらん
老人性骨粗鬆症

表3 エストロゲン製剤の経口投与と経皮投与(貼付剤)の比較
 

経 口 投 与

経 皮 投 与
吸収 消化管粘膜でエストラジオールからエストロンへ変換された後、吸収される 皮膚からそのまま吸収される
肝での代謝・不活化 受ける 受けない
肝の蛋白合成への影響 大きい 小さい
血中産物 主としてエストロン エストラジオール
血中濃度の変動 内服直後にピークを作る 変動が少ない
血中濃度 高濃度にするため、大量投与すると肝障害のおそれがある 高濃度にできる

 
エストロゲン製剤は骨粗鬆症、動脈硬化、高脂血症、泌尿・生殖器症状などの予防、治療にも有効であり、最近は老人性痴呆にも効果があることが報告されています。組織によって感受性(効き目)が異なり、骨代謝に対しては低いエストロゲン濃度で効果があるのに対し、脂質代謝に対しては比較的高濃度のエストロゲンが必要です(図4)。

図4 各種組織に作用する血中エストラジオール(-17β)の最小必要濃度とエストロゲン製剤の必要量

 一方、エストロゲンの長期投与によって、子宮体癌(子宮内膜癌)や乳癌の発症リスクが高くなることが危惧されます。そこで、子宮体癌発症の予防を目的として、プロゲストーゲン(黄体ホルモン様作用物質の総称)を併用します。原則的には、子宮を手術などで摘出した女性に対してはエストロゲン製剤の単独投与、それ以外の女性ではプロゲストーゲンを併用します。
 最近、種々の新しいホルモン製剤の有用性が報告されています。わが国では現在使用できる薬剤の種類が限られていますが、将来、より有効で副作用の少ない薬剤が開発される可能性があります。

おわりに
 
産婦人科領域では女性ホルモンと密接な関連を有する疾患が数多くあり、女性ホルモン療法はきわめて有用な治療法の一つです。わが国でも更年期障害のためにホルモン補充療法を受ける女性が年々増加傾向にありますが、それでも欧米の15〜20%に対して数%に留まり、これは更年期障害に対する考え方の相違やホルモン療法に対する認識の相違によるものと考えられます。
 女性の平均寿命が83歳を越えたことは、女性ホルモンが欠乏した状態での生活が30年以上続くことを意味しています。これは生殖の終了とともに寿命を終える他の動物には見られないことであり、中高年医療における最も大きな問題であります。女性ホルモン療法はこれを解決する有カな手段であり、適切な運用を行うことによって女性のQOL(quality of life)の改善に寄与することが期待されます。