−現代人と病気−

第17回 骨粗鬆症にならないために

−産婦人科医からの忠告−

★ 日 時  平成9年11月18日 (火)  午後6時10分〜8時

★ 講 師  梅 咲  直 彦 助教授  (産科婦人科学)

 

はじめに
 骨粗鬆症とは骨量が著明に減少した状態をいいます。これは骨の外形はそのままで、中ががらんどうになった状態です。このようになると骨がもろく骨折しやすくなります。たとえば転倒しただけで骨折を起こします。ひどくなると、そのような刺激が無くとも、自覚しないうちに骨折を起こしており、自然に腰が曲がったり、腰痛がひどくなります。寝たきり老人の大きな原因の一つです。わが国では40才以上で約500万人のこのような患者がいると推察されています。そしてその多くは女性です。このような病気は老人の病気と考えられますが、その原因は若い時の生活が大いに関連しています。本講座では寝たきり老人にならないために若い時のすごし方について婦人科医の立場からアドバイスさせていただきます。

1.骨粗鬆症は人類の病気
 小さい頃、母親からこわい話としてスフィンクスの物語を聞いたことがあります。
スフィンクスは前と通る砂漠の旅人に次のような謎をかけました。
「朝には4本足で、昼には2本足で、そして夕には3本足で歩く生き物はなにか?」
答えは人間だそうですが、それを解けなかったひとは身の程を知らない愚かな奴だといって殺されたという話です。
 3本足とは杖をついた老人を示していますが、このように腰の骨のまがり、すなわち骨折は人間の老人には避けられないことだと昔から知られていました。
 人類は脳の発達とともに頭が重くなり、それを支えるため直立歩行を開始しました。さらに老化現象により骨が脆くなり、頭の重さを支え切れなくなり腰の骨が圧迫されて骨折し、腰がまがってしまう、という歴史を遠い昔から繰り返してきました。

2.骨粗鬆症の原因
 骨は形成と、吸収のバランスの上でなりたっています。形成に関係するのは骨芽細胞、吸収に関与するのは破骨細胞です。その二つの細胞がバランス良く働いていれば良いのですが、図1に示すように吸収が形成を上まわると骨粗鬆症になります。     

図1 骨粗鬆症と骨吸収および骨形成のバランス

3.骨を強くすることは急には出来ない
 年齢による骨の量の変化を図2に示しました。20−40才代をピークに徐々に低下していきます。骨粗鬆症の現在の基準は骨塩密度で約0.7g/cuですが、多くの老人の値はこの中に入ります。この中に入らないためにも若いころからの骨の貯金が必要です。    

図2 年齢による骨量の変化(破線以下は骨粗鬆症、太線は平均値)

4.骨を強くするには・・・・・・・骨代謝に関連するもの
 骨を強くするには骨の栄養であるカルシウムの十分な摂取が必要です。表1に参考までにカルシウムを多く含んでいるたべものをあげました。しかしそれだけでは駄目です。それを腸から十分吸収させるとともに、腎臓から排泄させないようにすることが必要です。そのためには活性型ビタミンDが重要です。ビタミンDは活性型になるには太陽とそしてある種の腎臓の酵素が働きます。骨粗鬆症予防のため日にあたることが重要なのはこの理由からです。
 カルシウムは体の代謝に非常に重要な役割を果たしています。血液中に少なければ副甲状腺ホルモンが働き、骨からカルシウムを吸収していきます。それを予防するためにもカルシウムの摂取が必要です。そのほかカルシトニンも骨の吸収の抑制に働きます。
 女性ホルモンも重要な役割を果たしているので次にあらためて解説します。

表1 カルシウムの多い食品

 日本人のカルシウム摂取量は非常に少なく、厚生省が呈示した1日必要量600rを超えていない。また、摂取の方法もカルシウムが吸収されにくいといわれる植物性の食品からとることが多い。したがって、牛乳などの吸収されやすい乳製品(カルシウムの吸収を促進する乳糖やカゼインが含まれている)や、イワシ、サクラエビなどからカルシウムを十分に摂取することが大切である。
(Ca含量:単位r)(折茂、カルシウム・ビタミンと骨粗鬆症、1987より)

塩えんどう 大さじ山 1 300 ご ま 大さじ山 1 180
小松菜煮物 1 鉢 190 ヨ ー グ ル ト 100g 110
かぶの葉煮物 1 鉢 145 牛 乳 200ml 200
大根葉煮物 1 鉢 135 厚 揚 げ 半枚 220
桜 え び 大さじ3 200 あ み 佃 煮 大さじ 1 140
プロセスチーズ 5ミリ厚2切れ 160 い わ し みりん干し1連 160
し し ゃ も 生干し2尾 130 が ん も ど き 1 枚 270
いわし丸干し 3 尾 350 木 綿 豆 腐 半丁 170

5.女性ホルモンと骨代謝
 女性ホルモンには大きく分けて、乳房を大きくしたり、体の丸みなどの女性らしさの源であるエストロゲンと、排卵後卵巣の黄体から産生されるプロゲステロンがあります。骨代謝にはエストロゲンが重要な働きをしています。
 閉経期以降、急激に骨量が減ることからもエストロゲンの重要さがおわかりいただけると思います。しかし、エストロゲンの詳細な働きが明らかになってきたのはごく最近のことです。そのきっかけは骨芽細胞にエストロゲンを受け止める手(受容体)の存在が発見されたからです。そのためエストロゲンは骨に直接働いていることが推察され、精力的な研究が開始されました。そして、エストロゲンは骨芽細胞を刺激し、骨の形成に働くとともに、そこから骨の吸収を抑制するサイトカイン(生理活性物質)を産生させ、骨の吸収も抑制させ、この様な2重の働きで骨を強くしていることが明らかにされました。そのほか腎臓にも働き、活性型ビタミンDを産生させる酵素の産生も亢進させる役割もあります。

図3 エストロゲン低下による骨量減少のメカニズム

E2:エストラジオール,1,25(OH)2D3:1,25-ジヒドロキシコレカルシフェロール,PTH:副甲状腺ホルモン,IL:インターロイキン,
 TGF:transforming growth factor,IGF:インスリン様成長因子(麻生武志・日本医師会雑誌1997;117;1099-1102より引用)

6.骨を弱くする危険因子
 骨粗鬆症のライフスタイルでの危険因子を表2に示しました。

表2 骨粗鬆症の危険因子

 A)個人的因子(宿主因子)
   1.人種、時代背景
   2.遺伝、体質(家族歴)
   3.性(女性>男性)
   4.年齢(特に閉経以降の女性)
   5.体格(きゃしゃで小柄な人、やせ)
 B)栄養的因子
   1.カルシウム不足(日本人という火山国、歴史的習慣) 
   2.嗜好品(飲酒、喫煙)
   3.食塩やリンの過剰摂取
   4.急激なダイエットによる減量
   5.日光の不足、ビタミンDの不足
 C)物理的因子
   1.運動不足(長期臥床)
   2.筋肉麻痺
   3.運動能力や咀嚼能力の低下
   4.無重力状態
 D)疾患・薬物に由来する場合
   1.閉経前卵巣切除、性腺機能低下症
   2.胃切除
   3.神経性食思不振症
   4.ステロイド投与

 次にその重要なポイントを解説します。
★ダイエットは駄目
 最近若い女性に痩せ願望が強く、ダイエットに励む女性も少なくありません。ダイエットによりカルシウム不足がおこりますし、また卵巣の働きも低下させます。また度を越すと神経性食思不振症にもつながります。ダイエットをしたからといってすぐに骨粗鬆症にはなりませんが、骨の貯金ができなくなり、老後には確実に骨粗鬆症になります。

7.その他の危険因子
 女性ホルモン、特にエストロゲンが骨の吸収を強く抑制し、また形成を促進します。そのため卵巣の働きが低下し、エストロゲンの産生が減少すると骨の量が減ってきます。そのため卵巣の働きの悪い人は注意が必要です。
 また治療の目的で両方の卵巣をやむなく摘出された人も、当然ながら注意が必要です。
 最近子宮筋腫や子宮内膜症の治療の目的で、薬物による偽閉経療法が盛んに行われるようになっています。この治療は、エストロゲンを閉経と同じ位に低下させますから骨には悪い影響を与えます。

8.やせている人は注意
 エストロゲンは卵巣以外で脂肪細胞でも産生されます。とくに閉経期以降は主な産生源となります。そのため、痩せている人はそれからの産生も少ないので骨量の低下が著しくなります。少し肥り気味の人は閉経期以降でも皮膚が若々しいのはこの理由によります。若さを保つとともに、骨を強くするにも少しふくよかに!

9.検査法
 今後の生活改善や治療を受けるためにも、自分の骨量を知っていることが重要です。最近では保健所でも検査が受けられるようになっています。
 骨の量を測定する方法として表3の様な方法があります。精密検査法としてはDEXA法やQCT法があります。これらはいずれも痛みなど全くない検査です。診断の手順を図4に示します。

表3 骨量測定装置の種類と特徴

                測定部位     特     徴    
 photodensitometry法(MD法,DIP法,CXC法)  第2中手骨   通常のX線撮影装置が使用できる 
 光子吸収測定法
   single-energy X-ray absorptiometry(SXA)
   dual-energy X-ray absorptiometry(DXA)
 前腕骨、踵骨
 腰椎、全身骨
 測定時間が短い、装置が小型である。
 再現性、精度共に高められる、装置は大型 
 定量的CT法
   腰椎quantitativeCT(QCT)
   末梢骨QCT(pQCT)
 腰椎
 前腕骨
 骨皮質と海綿骨を分けて検討できる。
  同上、装置は小型
 定量的超音波法  踵骨、脛骨         X線を使用しない、骨の力学的特性の測定
  現時点ではスクリーニングのみに使用

図4 原発性骨粗鬆症の診断マニュアル

10.治療法

表4 現発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)

              T.X線上椎体骨折を認める場合   
     低骨量[骨萎縮度T度以上、あるいは骨密度量が若年成人平均値(YAM)の
     80%以下]で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。

              U.X線上椎体骨折を認めない場合   

                     脊 椎 X 線 像    骨 密 度 量       
     正      常   骨萎縮なし  
     骨 量 減 少   骨萎縮度T度     YAMの80〜70%
     骨 粗 鬆 症   骨萎縮度U度以上     YAMの70%未満

YAM:20〜44歳の若年成人平均値。
注:骨密度量は原則として腰椎の骨密度量とし、腰椎骨密度量の評価が困難な場合にのみ橈骨、第2中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨密度量を用いる。
骨萎縮とは radiographic osteopenia(X線上骨量減少)に相当する。

 表4に示した基準で治療が行われます。骨は急には強くならないので、骨粗鬆症になる前から、治療が必要となります。すなわち骨塩減少症から治療が開始されます。それには表5の様な薬物療法があります。当然ながらこれかの薬物療法とカルシウムの摂取に加え、良く運動すること、太陽にあたるなどの日常生活での注意も必要なのはいうまでもありません。
               表5 骨粗鬆症治療薬の種類と特徴

          

 次に薬物療法の主なものを解説します。
1)ホルモン補充療法(HRT)
 エストロゲンの重要性を繰り返して述べてきました。閉経期以降、また若くても卵巣機能の低下している人にはHRTが非常に有効な治療法になります。これは骨の量を増加させるのみではなく、表6に示したように多くの利点があります。若さを保つ上でも非常に有効です。しかし、エストロゲン単剤では子宮体癌の頻度が高くなるので一般的にはエストロゲンとともにプロゲステロン(黄体ホルモン)も同時に投与されます。

表6 エストロゲンが有効と思われる症状

 神経内分泌的   hot flush
 発汗、寝汗
 睡眠障害
 気分の変化
 不安
 イライラ
 記憶・集中の欠如 
 外性器萎縮  乾燥・かゆみ
 性交痛
 性欲減少
 排尿障害  腹圧性尿失禁
 頻尿
 その他  関節痛
 しびれ・蟻走感
 皮膚の乾燥
 毛髪の乾燥・もろさ
 爪のもろさ

2)ビスフォスホネート
 最近、骨を増加させるスペシャリストとしてビスフォスホネートが開発され、使用が可能となりました。HRTが不可能な症例には有効な薬剤です。

おわりに
 骨粗鬆症は「ひと」に与えられた試練です。老人になれば多くのひとがこの病気になります。むしろ、老化現象といえるかもしれません。しかし、注意をすれば出来るだけ遅く、また軽度に抑えることが可能です。それには若い時から骨の貯金をたくさんしておくことです。カルシウムをよく採り、適当な運動習慣をもつことは基本です。過剰なダイエットなどはとんでもないことです。健康美人であることがなによりも大切です。また種々の危険因子のある人、また閉経期を迎えた方は自分の骨の量を一度検査することをおすすめいたします。

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