第47回  血尿・蛋白尿と言われたら

日時  平成12年11月22日 (水)
   午後6時10分〜午後8時
講師  岡 村 幹 夫 講師
          (内科学第1)

はじめに
 多くの腎臓病は尿に血尿やタンパク尿が見られます。腎臓病の発見、診断にとって検尿は不可欠です。血尿・タンパク尿をどのようにとらえていくかは診断、治療方針の決定において非常に重要です。一方で血尿・タンパク尿を生じる原因は様々であり、内科を受診すべきか、泌尿器科を受診すべきか?怖い腎臓病か、怖くない腎臓病か?一般医にとっても、患者さんにとっても判断に困ることもあります。
 腎臓病の代表選手である慢性腎炎や慢性腎不全などは、慢性すなわち不治を意味するものとして考えられてきました。しかしながら、最近の腎臓学の進歩によりステロイドを含む薬物療法、合併する高血圧の管理、低蛋白食を中心とする食事療法が治療上たいへん重要であり、これらによる治療成績の改善が報告されてきています。
 腎臓病についての理解をより一層深め、さらに腎臓病とうまく付き合っていくための生活についてお話したいと思います。47-1.gif (22912 バイト)

1.腎臓病の理解のために
腎臓の構造
 腎臓は外側がふくらみ内側がくぼんだソラ豆の形をしています。大きさは、長さ10cm、幅5cm、厚さ3cm、重さ100〜150グラムです。表面は、光沢のある薄い膜(被膜)で覆われ、この外側を脂肪が取り囲んでいます。内側は大きくくぼんで腎門と呼ばれ、腎動脈、腎静脈、尿管が出入しています。
 腎臓を縦半分にしてみてみると、表面近くに糸球体がある皮質と、内側の髄質に分かれ、尿細管が皮質と髄質の間を縫うように走って放射線状になっているのが分かります。髄質の先が髄杯で、この延長は腎盂、尿管と続きます。47-2.gif (32199 バイト)47-3.gif (22062 バイト)
 腎臓を顕微鏡で見ますと、糸球体−近位尿細管−ヘンレ係締−遠位尿細管−集合管からなるネフロンといわれる機能単位が、一個の腎臓に約100万個、両腎で計200万個もあります。
 ネフロンの始まりは、直径約0.2mmの毛細血管が糸玉のようにからまった糸球体と、それをとりまくボーマン嚢でできています。糸球体の毛細血管の内側は内皮細胞でおおわれ、その下に基底膜があります。毛細血管網は、メサンギウムという組織によって支えられています。糸球体の毛細血管には、入口側(輸入細動脈)と出口側(輸出細動脈)があり、輸入細動脈側が遠位尿細管と接触する部分は、傍糸球体装置と呼ばれます。糸球体から出る尿細管は、近位尿細管、ヘンレ氏係締、遠位尿細管に分けられ、尿はこの部を通って集合管を経て腎盂に至ります。

腎臓の機能
老廃物の排泄
 主に蛋白質の代謝産物が腎臓より排泄されます。腎機能を知るために、通常、血液検査を施行しますが、特にBUN(血液尿素窒素)とCr(クレアチニン)が腎機能を知るための代表的な物質です。BUNは外因性蛋白質すなわち食事由来の蛋白質の最終代謝産物であり、Crは内因性蛋白質すなわち筋肉由来の蛋白質の最終代謝産物です。通常、腎機能が低下すると、血中のBUNとCrが共に上昇します。
水分の調節
 腎動脈から腎臓内に入った血液は、輸入細動脈から糸球体の中を流れる間に、毛細血管のすき間で濾過作用を受けて、原尿が作られます。原尿は1日で100から180リットルにも達します。原尿を全て排泄してしまうとひからびてしまいますから、近位尿細管で、水分の80%、糖、電解質などの不可欠な物質を、再吸収作用によって吸収し血液内に戻します。遠位尿細管では、体内にまだ過剰にある物質を、分泌作用によって排泄します。私たちが排泄する尿は、濾過・再吸収・分泌の3作用を経て、集合管で再び水分が吸収され、腎盂に集まり、尿管、膀胱、尿道を通って排泄されているのです。
電解質の調節
 ここでは、腎臓の障害が進んだ場合、どのような変化が生じるのか、お話しします。
Na(ナトリウム):体液量と相関します。過剰の塩分を摂取すると、それにともない体内の水分量が増加し、血圧上昇や、肺水腫、うっ血性心不全の原因となります。
K(カリウム):細胞の興奮に重要な役割をしています。Kは腎臓が主要な排泄経路であるため、腎不全では高K血症になりやすく、高K血症により不整脈が起こったり、急死することもあります。
Ca(カルシウム):ビタミンDの活性低下により、腸管からのCa吸収が低下し、低Ca血症となります。すると、副甲状腺よりPTH(副甲状腺ホルモン)が分泌され、胃よりCaを動員するため、腎性骨異栄養症が起こります(二次性副甲状腺機能亢進症)。
Pi(リン):腎臓よりリンの排泄低下により、高リン血症が起こります。高リン血症は二次性副甲状腺機能亢進症の一因と考えられています。
ホルモンの分泌、ビタミンDの活性化
 造血ホルモンであるエリスロポエチンの腎臓からの分泌低下により、腎性貧血が起こります。現在はリコンビナント・エリスロポエチンが販売されているため、それを注射することにより造血効果が得られます。腎臓ではビタミンDの活性化を行っており、腎不全ではビタミンDの不足に伴い低Ca血症となる場合が多い。これにより(他の原因説もあるが)、二次性副甲状腺機能亢進症が引き起こされます。

2.腎臓病の症状
蛋白尿
 蛋白尿は、糸球体が傷害を受け、血液中の蛋白質が漏れ出るもので、腎障害の重要なサインです。しかし、腎障害でない蛋白尿もあるので、蛋白尿が発見された時は、病的か否かを診断することが大切です。繰り返し早朝尿を検査しても出現している蛋白尿は、腎臓病による疑いが濃厚なので、さらに精密検査を進めます。腎臓病による蛋白尿と確定すれば、1日の尿蛋白量を測定して、治療方針、治療効果、予後の判定の目安とします。
血尿
 赤血球が尿中に漏れ出る血尿は、腎臓病や尿路系疾患の早期発見の糸口として大切な徴候です。血尿には、トイレで目でみても明らかに赤色
をして分かるもの(肉眼的血尿)と、尿の沈澱物に顕微鏡で見て赤血球が1視野に5個以上存在するもの(顕微鏡的血尿)に分けることができます。血尿の原因には、糸球体病変が原因の腎炎性血尿と、腎外傷、腎腫瘍、腎結石、下部尿路系の炎症・外傷・腫瘍からでた血液が尿に混じる場合があります。
尿沈湾異常
 尿沈渣を顕微鏡で調べると、細菌や白血球が尿中に多数混在していることがあります。腎や尿路系の炎症の際に、膿尿に血尿が伴って認められます。また糸球体から漏れ出たものやこわされた細胞が尿細管で鋳型に取られた円柱がみられます。蛋白物質からなる硝子円柱、変性した細胞からなる顆粒円柱、太い尿細管で作られた腎不全円柱など、これらはいずれも病的なものです。
浮腫
 健康な状態では、体のどの部分を押してもゴムマリのように元通りに戻ります。足のすねを押すと、しばらく凹んでいる状態は、浮腫(むくみ)がある証拠です。浮腫は、血液中の蛋白量(正確にはアルブミン)が減少したり、水分が多すぎて毛細血管の内圧が高かった時、細胞と細胞の間に過剰の体液が溜った状態です。浮腫は、腎臓病と最も関わりの深い症状の一つです。しかし、炎症、外傷、静脈の閉塞、リンパ管閉塞などの局所循環が不良な場合でも起こり、また、心不全、肝硬変、まれに薬の副作用でも起こることがありますから、区別が必要です。浮腫は目が覚めた時まぶたが腫れぼったい、体重が異常に増え、靴が履けなくなったり、靴下の跡がくっきりついたり、ズボンがはけなくなったりします。さらに進行すると、お腹の中に水が溜ったり(腹水)、胸の中に水が溜ったり(胸水)し、心臓が拡張して十分働けなくなり(心不全)、肺に血液がうっ滞して呼吸困難となり(肺水腫)、時に生命が危険となります。
高血圧
 腎性高血圧ともいい、腎臓病の悪化に深く関係しています。
貧血
 腎不全には必発の症状であり、赤血球の数が減少します。進行すると動悸、息切れ、全身倦怠感、微熱などが生じます。

3.腎臓病の主な検査
尿検査
尿pH5.3〜8.0
 アルカリ尿:尿路感染、代謝性・呼吸性アルカローシス、尿細管性アシドーシス
 酸 性 尿:代謝性アシドーシス・呼吸性アシドーシス
尿比重 1.003〜1.030
 尿比重↑:脱水
 尿比重↓:尿濃縮力障害、尿崩症
    腎機能低下では尿濃縮力・希釈力低下により1.010前後に固定
尿糖  陰性
    血糖値160〜180r/dl以上で尿細管再吸収能を越え陽性となる。
   血糖正常でも腎性糖尿、尿細管性障害をきたす疾患で陽性となる
尿潜血  陰性
    試験紙法では赤血球由来のヘモグロビンおよびミオグロビンが検出される。
    尿潜血陽性となった場合は尿沈渣にて赤血球の有無を確認する必要がある。
尿蛋白 100r/日以下
     200r/日以上を有意とする。
微量アルブミン尿
    早期糖尿病性腎症、高血圧性腎障害の早期診断に用いる。
尿沈渣
  赤血球:正常O〜2/視野
       異常5/視野以上
  白血球:正常O〜2/HPF
       異常5/HPF以上
尿細胞診
  ガン細胞の有無について調べる。
血液検査
 これには貧血の有無を検査する末梢血検査と、化学成分を検査する方法があります。化学検査のうち、特に先に述べたBUNとCrが腎機能
を知るための代表的な物質です。腎臓は食物から吸収されたタンパク質の老廃物や筋肉の活動でできた老廃物などが、体内に一定以上たまらな
いよう常にBUNやCrなどの老廃物を排泄しています。腎機能が低下すると血中のBUNとCrがともに上昇します。
腎機能検査、クリアランス検査
 腎臓の機能単位であるネフロンは、毛細血管の塊である糸球体と、それに続く尿細管からできています。尿検査などで腎臓病の存在が分かった時、腎臓の予備力や障害部位を検査するのが機能検査です。クレアチニン・クリアランスは糸球体の濾過機能を簡便に知ることができるたため、頻回に行われます。
画像診断
 腎臓病の原因・部位・進行程度を診断するため、レントゲン、超音波放射性元素(アイソトープ)を駆使して行なう検査の総称です。
 単純X線写真では腎臓の大きさ・位置・形、腎結石などを診断することができます。静脈性腎孟造影(DIP)はヨード性造影剤を静脈内に注射し、時間的に造影剤の排泄を観察して、腎臓、腎孟、尿管、膀胱の形を写すレントゲンの検査です。
超音波検査:超音波を体表面から当て、腎臓ならびに尿路系を観察します。何の侵襲もなく、情報が良く得られるので、現在よく行なわれます。
コンピュータ断層撮影(CT):X線の透過性の違いをコンピュータ処理し、体内の臓器の様子を詳細に観察することができます。
腎血管カテーテル検査:大腿動脈を穿刺し、血管カテーテルを腎動脈の分岐まですすめ、造影剤を注入する腎血管造影があります。腎動脈瘤、腎動静脈痩、血管分布異常、腎動脈狭窄、腎腫瘍などの診断に効果を発揮します。
逆行性腎孟造影:膀胱に内視鏡を入れ、尿管口から尿管カテーテルをいれて造影剤を注入してレントゲンを撮ります。尿管から腎杯までの異常を検査する目的で行われます。
膀胱鏡:膀胱内に内視鏡を入れて、内部を観察する膀胱鏡、尿道を通じて造影剤を注入する膀胱造影があります。尿道異常、膀胱異常、尿管逆流現象などを検査します。
アイソトープ検査:放射線で標識した薬剤を静脈内に注射し、腎から薬剤排泄を放射能測定し、左右別々に折れ線グラフ化するレノグラムがあります。左右分腎機能、腎血流欠損、尿管閉塞などが疑われる時に行われます。
腎生検
 腎臓病の診断に欠かせないものに、腎臓の組織を顕微鏡で調べる病理検査があります。尿検査や腎機能検査で異常が発見された時、腎臓病の原因、種類、治療法の選択、治療効果ならびに予後判定を行なうためには欠かせない検査法です。
 レントゲン透視または超音波で腎臓を確認して、特殊な針を背側部から腎臓に穿刺し、腎臓の一部を採取します。手術によって腎臓の一部を採取する、オープンバイオプシーという方法もとられることがあります。合併症としては、血尿、局所の疼痛、出血などが起こる場合があるので、入院して全身検査を行ったのちに施行します。
腎生検の適応
1)持続性蛋白尿、血尿のため慢性腎炎が疑われる場合で蛋白尿が一日500r以上みられる場合。ただし若年者で激しい運動を継続する必要がある場合や将来妊娠出産の可能性のある若年女性の場合は500mg以下でも実施を考える。
2)ネフローゼ症候群
3)急速に腎機能低下進行を認める場合
4)腎病変をともなう全身性疾患、例えば糖尿病、 SLE、アミロイドーシスなど
5)原因不明の腎障害

4.主な腎臓病について
腎臓病の症状からの分類
 1982年WHOが提唱した腎疾患の臨床症候からみた分類を示します。 発症様式、腎機能の経時的推移、タンパク尿の程度などにより5型に分類してありますが、あくまでもこれは「症候群」であり、単一疾患の診断名ではありません。

腎臓病の症候群
・急性腎炎症候群
・急速進行性腎炎症候群
・反復性あるいは持続性血尿
・慢性腎炎症候群
・ネフローゼ症候群

急性腎炎症候群
 血尿、蛋白尿、高血圧、糸球体濾過値の減少、 Naと水の貯留の急激な出現など発症が明らかであることを特徴とする症候群であり、この臨床像を呈する組織所見あるいは疾患の代表は溶連菌感染後急性糸球体腎炎です。
速進行性腎炎症候群
 血尿、蛋白尿、貧血、急速に進行する腎不全が急激に発症する症候群であり、この臨床像を呈する組織所見あるいは疾患は半月体形成性糸球体腎炎、Goodpasture症候群、紫斑病性腎炎、ループス腎炎、結節性動脈周囲炎、Wegener肉芽腫などがあります。
反復性あるいは持続性血尿
 蛋白尿はわずかか、あるいはほとんど認めず、肉眼的または顕微鏡的血尿が潜在性に、あるいは急激に出現し、しかもほかの腎炎症候群にみられる所見を認めないものであり、この臨床像を呈する組織所見あるいは疾患は、IgA腎症をはじめとして多彩な疾患が考えられます。
慢性腎炎症候群
 蛋白尿、血尿、高血圧が認められ徐々に腎不全に陥るものであり、これも実に様々な疾患が原因となります。わが国における「慢性腎炎」とは他の疾患による二次的な腎炎は除外し、糸球体に原発したものだけを対象とし、しかも経過中腎機能低下は伴わなくてもよいとされている。
ネフローゼ症候群
 蛋白尿、高血圧、浮腫の急激な出現などを特徴とする症候群であり、この臨床像を呈する組織所見あるいは疾患は糸球体原発性疾患により発症したネフローゼとしては微少変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、膜性腎症などがあります。原発性糸球体疾患以外にも、二次的にネフローゼをきたしたものとしてはループス腎炎、紫斑病性腎炎、糖尿病性腎症、アミロイドーシスなどがあります。

代表的な腎臓病の組織学的分類
微小変化群
 小児期に発症するネフローゼ症候群の大多数をしめ、特に6才以下ではネフローゼ症候群の90%が本疾患です。その後年令が長じるにしたがい頻度は低下し、成人の一次性ネフローゼでは30%、特に35才以上では15%を占めます。原因としてはリンパ球から放出されるある種のリンフォカインが糸球体基底膜の膜透過性を亢進させるため蛋白が漏出するのではないかと考えられています。発症は急激でアルブミンを主体とするタンパク尿が大量に出現し、短期間のうちに高度の全身浮腫、胸水、腹水をきたします。慢性的な腎機能障害を引き起こすことはありませんが、低アルブミン血症にもとづく循環血漿量減少により乏尿、急性腎不全をきたすこともあります。また血尿をみとめることは少ない。
 第一選択薬のステロイドに良く反応し、ステロイド治療開始後平均2週間で蛋白尿は陰性化し、最終的には完全寛解率に達します。しかしステロイドの減量とともに再発も多く、50%以上にのぼるともいわれています。
巣状腎硬化症
 小児、成人いづれの年令にも発症し、成人ではネフローゼ症候群の10〜20%を占めるといわれている。成因は不明ですが、血行動態異常、糸球体基底膜陰性荷電障害、免疫学的因子、凝固因子、脂質代謝異常などの要因があげられています。血尿、高血圧とともに多くはネフローゼ症候群を呈するが、軽度のタンパク尿、血尿のみの例も30%程度みられます。
 治療の第一選択薬はステロイドであり、これに加え各種免疫抑制剤、抗凝固剤、抗高脂血症剤が用いられます。ステロイドに対する反応性は悪く完全寛解率20%以下との報告が多いため、ステロイド抵抗性ネフローゼ、難治性ネフローゼの代表的疾患とされてきました。しかし近年は完全寛解率30%以上の成績も報告されてきております。
膜性腎症
 本症は成人領域におけるネフローゼ症候群の原疾患として頻度が高く、約30%を占める。また膜性腎症からみるとその約80%はネフローゼ症候群を呈するが、検尿で偶然発見される無症候性のものも約20%みられます。成因は抗原と抗体が結合したいわゆる免疫複合体が腎糸球体係蹄壁の基底膜上皮側に沈着あるいは生成されるため基底膜の蛋白透過性が亢進ずることによります。治療に関しては1960年代後半からすでに30年近く欧米を中心として治療の有効性に関する論争が続いているが未だ結論は出ていません。副腎皮質ステロイド剤の内服療法あるいは大量静注療法、免疫抑制剤、そしてこれらの併用療法と様々な治療法が試みられており、治療効果があるとするもの、逆に自然寛解率と有意差はなく治療は有効でないとするものが対立しています。わが国においては欧米に比し治療成績の良好な報告が多く、治療の有効性に肯定的な趨勢となっています。この原因の一つに民族的差異のみならず早期発見ときめの細い治療が影響しているといわれています。一般に蛋白尿の程度と腎機能予後は相関し、無症候性のものは将来的に腎機能低下の危険性は少なく、高度ネフローゼを呈するほど、あるいは治療抵抗性のものほど腎機能が低下していく可能性が高くなるといわれています。
IgA腎症
 IgA腎症は1968年フランスのBergerらによって提唱された疾患概念であり、IgAを主体とする免疫グロブリンが腎糸球体メサンギウム領域に沈着することを特徴とする疾患です。発症年令は20〜30才台の若年が多い。以後数多くの基礎的、臨床的研究が世界的になされてきたにもかかわらず現在なおIgA腎症の発症、進展機序は不明です。特にわが国においてIgA腎症は慢性糸球体腎炎の40%を占める頻度の最も高い腎疾患であり、数年から数十年をかけ緩徐に進行増悪するものもあるため最終的に末期腎不全に至るものは30%強に及ぶであろうとされている。また年間約4,O00人のIgA腎症患者が新規透析導入に至ると推測され、就学、就労、妊娠、育児に甚大なる影響を与え、さらに医療経済面からも深刻な問題をはらんでいます。
IgA腎症診療指針
診断基準
1.臨床症状
 大部分の症例は無症候であるが、ときに急性腎炎様の症状を呈することもある。ネフローゼ症候群の発現は比較的稀である。一般に経過は緩慢であるが、一部の症例では末期腎不全に移行する。
2.尿検査成績
 尿異常の診断には3回以上の検尿を必要とし、そのうち2回以上は一般の尿定性試験に加えて尿沈渣の鏡検も行うものとする。
A.必発所見:持続的顕微鏡的血尿
B.頻発所見:持続的または間欠的蛋白尿
C.偶発所見:肉眼的血尿
3.血液検査成績
A.必発所見:なし
B.頻発所見:成人の場合、血清IgA値350r/dl以上
4.確定診断
 腎生検による糸球体の観察が唯一の方法である。
A.光顕所見:巣状分節性からびまん性全節性までのメサンギウム増殖性変化
B.蛍光抗体法または酵素抗体法所見:びまん性にメサンギウム領域を主体とするIgAの沈着
C.電顕所見:メサンギウム基質内、とくにパラメサンギウム領域を主とする高電子密度物質沈着
予後判定基準
[分類]
IgA腎症患者を腎生検施行の時点で以下の4群に分ける。
予後良好群:
   透析療法に至る可能性がほとんどないもの。
予後比較的良好群:
   透析療法に至る可能性がかなり低いもの。
予後比較的不良群:
   5年以上20年未満に透析療法に移行する可能性があるもの。
予後不良群:
   5年未満に透析療法に移行する可能性があるもの。
[細目]
腎生検光顕標本組織所見
   予後判定は腎生検光顕標本の組織所見をもとに行い、必要に応じてその他の指標の所見を加味して判断する。
その他の臨床所見
   腎生検の組織所見に加えて、血圧、血清クレアチニン、クレアチニンクリアランス、尿蛋白量などの値に悪化傾向が認められた場合は、予後判定の重要な補助手段になる。
治療指針
[細目]
1.予後良好群
A.生活規制
 特になし。きわめて過激な運動を避けること以外には格別の規制はない。受診は年1〜2回、尿定性試験と血圧測定を行う。
B.食事療法
 特になし。きわめて過剰の食塩摂取を避けることを指導する他には、通常の食事で差し支えない。
C.薬物療法
 行わない。
2.予後比較的良好群
A.生活規制
 特になし。上記の予後良好群と同様である。ただし受診は少なくとも年3〜4回行う。
B.食事療法
 特になし。上記の予後良好群と同様である。
C.薬物療法
 原則として行わない。
3.予後比較的不良群
A.生活規制
 過労を避けることを指導する。通常の勤務や座学による学業は差し支えない。妊娠・出産には注意が必要である。外来受診は原則として1ケ月に1回行い、尿定性試験と血圧測定に加えて血液生化学検査と尿蛋白定量検査は必ず実施する。
B.食事療法
 減塩1日7〜8g、蛋白1日O.8〜O.9g/体重kg、熱量1日35kcal/体重s、水分摂取は浮腫を伴わない限り特に制限はない。小児は年令に応じて調整を行う。
C.薬物療法
(1)抗血小板薬
 抗血小板薬の長期投与を行う。
(2)降圧薬
 腎不全を伴わない症例についてはアンギオテンシン変換酵素阻害薬を使用し、降圧不十分あるいは腎不全を伴う症例に対してはカルシウム拮抗薬あるいはαメチルドーパを用い、さらに降圧不十分であればαブロッカーを併用する。
(3)副腎皮質ステロイド薬
 腎生検所見上、糸球体メサンギウム基質の増加や間質の線維化が軽度で、急性炎症所見が主体である症例を対象とする。尿蛋白量が中等度以上で、クレアチニンクリアランスが70ml/min以上であれば、副腎皮質ステロイド薬を使用する。
(4)抗凝固薬
 腎生検で半月体形成、糸球体硬化、ボーマン嚢との癒着などが目立つ場合はワルファリンを用いるが、入院患者ではヘパリンを使用することもある。
(5)免疫抑制薬
 通常は使用しない。
4.予後不良群
A.生活規制
 慢性腎不全に準じた生活規制を行う。妊娠・出産は避ける。受診は1ケ月1回以上行い、検査は慢性腎不全に準じる。
B.食事療法
 食塩1日1g以下、蛋白1日O.6g/体重kg、熱量1日35kcal/体重kg、水分摂取は乏尿を伴わない限り特に制限はない。小児は年令に応じ
て調整を行う。
C.薬物療法
 予後比較的不良の場合に準ずる。病態によっては慢性腎不全の治療を行う。

5.腎臓病の治療

内科的腎疾患の治療目標

・腎疾患の根治
・腎疾患の進展防止
・保存期慢性腎不全の末期腎不全への進展防止
・末期慢性腎不全の治療

安静度

腎臓病における安静の目安

1日1g以上の蛋白尿
2+以上の蛋白尿
いずれかがあれば肉体労働・
体育系部活動は避ける
高血圧
 収縮期  140mmHg以上
 拡張期   90mmHg以上
2つ以上あれば一般事務や
軽い運動のとどめる
仕事の合間に休みを取る
腎機能低下
 血清クレアニチン上昇
 Ccr低下
むくみが続く、身体がだるい
などの自覚症状がある場合や
腎機能低下が進む場合は安静が必要

 腎機能に応じた生活制限が必要です。まずは規則正しい生活のリズムを確保すること。仕事は午前中から日中にかけて重点的に行い、午後の負担を軽くすること。夜には十分な休養と睡眠をとること。過激な肉体労働を避け、運動や活動の後には適度な休養をとること。また、安静のみの生活は、心身の健康保持のためにはかえって不適当と思われます。47-4.gif (16959 バイト)
増悪因子に対する対応
高血圧
尿蛋白
高脂血症、脂質代謝異常
高蛋白食、塩分
脱水、高カルシウム血症
高尿酸血症
感染症
薬物
尿毒症毒素
薬物療法
副腎ステロイド薬
免疫抑制薬
抗血小板薬
高血圧の治療に用いられる薬
降圧利尿薬
アンギオテンシン変換酵素阻害薬
カルシウム拮抗薬
浮腫の治療に用いられる薬
ループ利尿薬

低タンパク食
腎臓の働きを守るために
 今の世の中、グルメ思考もあって、「高タンパク低カロリー」なる食事が絶賛されていますが、窒素を含む多くのゴミを血液中に発生する高タンパク食は、痛風などの成人病を引き起こすばかりでなく、慢性腎炎、糖尿病、高血圧などで腎臓が弱った人にとっては、その働きをかえって低下させてしまうことが最近わかってきました。日本人は一日80〜90gのタンパク質を摂取していますが、低タンパク食では40〜50gくらいに減らします。一人前のカツ丼が30gのタンパク質を含んでいますので、これを食べるとあとの二食にはもう肉や魚は食べられません。これではお腹がすくという人には、サラダ油よりも酸化されにくく、善玉コレステロールを増やしてくれるオリーブ油を利用します。このようにしてタンパク質を制限すると、ゴミ処理を担当する腎臓にとっては、負担が軽くなり、機能が回復してくるのです。食事療法を始めると、増加し続けていた血液中のタンパクの燃えかすが着実に減り始め、腎臓の働きを示すいろいろなデータが安定してきます。また、減塩、感染予防、スポーツなども考え入れたライフスタイルの改善によって、大切な腎臓を守っていくことも大切です。
蛋白質の制限がもっとも大切
 三代栄養素のうち、炭水化物や脂肪は体内でエネルギーとして燃やされると二酸化炭素と水になって息や汗となって排泄されますが、蛋白質は分解されるとほとんどが窒素化合物となって尿の中へしか排出できません。窒素化合物の中で最も多いのは尿素というものですが、その他にクレアチニン、尿酸、アミノ酸、アンモニアなどがあります。
 蛋白質の燃えかすである窒素化合物は腎臓からしか体外へ出すことができませんので、蛋白質を多くとると腎臓に負担をかけ、糸球体や尿細管といった腎臓の細胞を自滅させてしまいます。
 さらに腎機能が悪化すると血液の中に窒素化合物がどんどんたまり、高窒素血症が高度になると吐き気、嘔吐、出血、神経マヒ、心不全、昏睡など様々な症状があらわれてきます。
 そこで腎臓への負担を最小限におさえ、腎機能障害の進行をできるだけ遅らせるために蛋白質を制限することが必要となります。私たち日本人は平均して一日80〜90g(体重1kgあたり1.6g)の蛋白質を食べています。しかし、からだの栄養素の構成からみると、標準体重あたりO.8g/kg/日で十分と考えられています。すでに、現代のふつうの食事はかなりの高たんぱく食となっているのです。
 そこで、まずはじめは0.8g/kg/日で開始します。(標準体重が50sの場合40gの蛋白制限となります)。うまく低蛋白食ができるようになった方は0.6g〜0.5g/kg/日をおすすめしています。
十分なエネルギーの確保が必要
 食事に含まれているエネルギー量が不足していると、体の中の蛋白質を分解してエネルギーにしようとする作用がおこります。これではせっかく蛋白質制限をしていても体の中の老廃物はどんどんたまる一方です。蛋白質制限が効果的であるためには、糖質や脂質で十分なエネルギーを補給してあげることが大切です。
 エネルギー(カロリー)は多すぎる必要はなく、標準体重を維持できる程度で十分です。たとえば「体重が減っていく、ふらつく、空腹感が強い」ではカロリー不足、「最近、皮下脂肪が増えてきた」ではカロリーのとりすぎが考えられます。体重の変化はカロリーの過不足の目安となります。
 現在は、標準体重を次のように決めています。身長をメートル換算にし、それを掛け合わせた数字にさらに22をかけます。
標準体重=身長(m)×身長×22
(例)身長1.5mでは、1.5×1.5×22=49.5(kg)
 一日のカロリーは、体重1kgあたりおよそ35キロカロリーが一般的な目安ですので、それをかけます。
(例)49.5×35=1700キロカロリー
カリウム(K)の制限とは
 腎不全では腎臓からのカリウムの排泄が減るため血液の中にカリウムがたまってきます。血液中にたくさんたまると、不整脈や心停止のおそれがあります。
 カリウムは細胞の中に多く含まれているため、蛋白質制限をすれば同時にカリウム制限にもなります。そのため腎不全保存期ではことさら制限を必要としない、あるいは軽い制限でよいことがほとんどです。
 しかし腎臓病のなかにはカリウムを排泄する働きだけが特に低下しているものがあり、そのような場合では腎機能があまり低下していなくてもカリウムの制限が必要となります。また、エネルギーが不足しているとカリウムの値が高くなることがあるので十分なエネルギーをとることが必要です。カリウムの制限が必要かどうか、またどの程度制限が必要なのかは主治医に確認して下さい。
リンの制限とは
 腎不全では腎臓からのリンの排泄が減るため、高リン血症がおこってきます。高リン血症が続くと骨がもろくなったり、溶け出た骨の成分が体のあちこちで沈着して痛みをおこしたり、皮膚がかゆくなったりします。リンは蛋白質を含む食品、特に魚介類、肉類、乳製品に多く含まれており、蛋白質制限をすればリン制限もできることが多いのです。
塩分制限について
 過剰な塩分は血圧を高くし、腎臓に大きな負担を与えます。私たち日本人は世界的にみても食塩を多くとっている国民です。地方により差はありますが一日の平均の食塩摂取量は12g程度となっています。健康な人でも一日10g以下がよいとされています。
 腎臓病と診断された人は一日5〜7gの制限となります。ただし、高血圧があり薬を用いても血圧が下がらない場合やむくみがある場合は、もっと厳しく制限することもあります。
 塩分摂取量の多い人は、まず調味料や漬け物をへらし加工食品もできるだけさけることが必要です。
 調味料や加工食品に含まれる塩分量を覚えたり薄味でも食べられる調理法を工夫して食塩摂取量を減らしましょう。
水分について
 腎不全保存期では特に水分の制限はありません。むしろ水やお茶などを飲んで尿量を一日2000mlくらいに保つようにしましよう。水分をとり尿として排泄することで、体の電解質バランスの調整がしやすくなります。
 ただし尿量の少ない人や糖尿病性腎症、あるいは心臓系の疾患がある人は水分の取り方について必ず主治医に確認をして下さい。

腎臓をいたわる食生活

・偏食・過食をしない
・肉類を食べ過ぎない
・塩分を控える

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