−現代人と病気−
第45回   ダイエットと健康
-摂食障害との関連から-

日時 平成12年9月12日 (火)
  午後6時10分〜午後8時
講師 切 池 信 夫  教授
          (神経精神医学)

はじめに
現代の日本は食べ物が有り余り飽食の時代と云われております。そういう状況でストレス解消のために食べ過ぎたり、肥満を防ぐためにダイエットしたり、痩せたいという願望から拒食になったり、老いも若きもダイエットに走る社会的状況にあります。
こういった状況を反映してか摂食障害の患者さんが増えております。
そこで本日はダイエットと健康、神経性食思不振症(拒食症)や神経性過食症(過食症)などの摂食障害との関連、さらにこれらの摂食障害について説明します。

なぜダイエットが流行するのか
それは主に健康上、美容上、運動上の理由によります。
健康上の理由として、食べ物が有り余り飽食、グルメの時代といわれ肥満する人が増えております。肥満しますと成人病になりやすくなります。したがって成人病(糖尿病、高脂血症、痛風、高血圧、心疾患など種々の病気)を防ぐため、ダイエットに励みます。
美容上の理由として、痩せたスリムな体型が若い女性の「美と成功」の象徴として考えられ、スリムな体型すなわち「スタイル美人」の実現をめざしてダイエットに励みます。
さらに運動上の理由として、競技能力を高めるためや容姿が採点に影響を与えるスポーツに従事する人がダイエットに励みます。

若い女性がスリムな体型になってきている
「厚生の指標、国民衛生の動向」を資料として、1960年から1995年までの35年間における9〜24歳男女の身長、体重、これから算出したBody Mass Index{BMI体重(s)/身長(m)2、肥満の指標}の変化を調べますと(図1と2)、6〜24歳男性と6〜14歳女性の身長、体重、BMIは10年毎でみた場合に増加し体型がより大きくなっています。しかし15〜24歳女性の身長は10年毎に伸びているのに比し、体重は増加せず、BMIでは1960年の平均21.5から、1995年の平均20.5に低下しています。このように現代の日本の若い女性においては、ダイエットによりスリムな体型になってきていると考えられます。
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そこで小学校4年生から高校3年生までの男女学生の痩せ願望と肥満恐怖、ダイエットなどについてアンケート調査を実施しました(図3と4)。その結果10歳の女児において、痩せ願望と肥満恐怖をそれぞれ51%と35%に認め、これが17歳になると87%と79%に増加していました。一方男性においては、各年齢の20〜30%にこれらが認められました。そして10歳の女児の22%がダイエットしたり、体重を増加させないよう試みこれが高齢になるにつれて増加していました。さらに標準体重の85%以下の体重にもかかわらず14%の学生が痩せるための何らかの努力をしていました。この様に女性では10歳頃から痩せ願望や肥満嫌悪を有し、一部のものはダイエットをしていることが分かりました。45-2.gif (17606 バイト)

摂食障害は増えてきている
拒食症について、英国では若い女性の1%というデータもありますが最近の結果では若い女性の0.1〜0.2%となっています。
 一方米国では0.1〜0.5%となり、これら西洋諸国の結果を平均すると0.13%と報告されています。しかし日本では、これらより少し下回るものと考えられます。一方過食症についてみますと、英国では若い女性の1.5〜3.8%、米国では2.2〜3.5%となり、これらと西洋諸国の結果を平均すると約1%と報告されています。これは我が国においてもほぼ同率です。この様に摂食障害がこの20年間において西洋諸国と同様に我が国の若い女性においても急増しています。この原因として、ダイエットの流行と女性の自立や社会進出の増大によるストレスに満ちた状況などが考えられています。

ダイエットと摂食障害との関係45-3.gif (11827 バイト)
ダイエットが摂食障害の原因の一つとして重要視されています。
その他親に対する反抗としての拒食やストレスによる食思不振により摂食量の低下の持続も原因の一つとして考えられています。図5に示しますように摂食障害はストレス、思春期の自立葛藤、痩せ願望などより食思不振、拒食、ダイエットなどにより摂食量が低下し、これが持続しますと摂食障害を発症しやすい身体的素因を有する人の前頭前野・扁桃体−視床下部系が影響をうけ、さらに認知・情動−摂食行動制御系の機能異常を引き起こし、これに種々の摂食行動調節物質(神経伝達物質やホルモン)の変化、視床下部−孤束核系の機能異常が相侯って適切な摂食行動が障害されるものと考えられています。
さらに図5に示しますように痩せや栄養障害により生理的、精神的変化(身体的合併症や脳の形態的および機能的変化)を生じ、これがさらに摂食行動の中枢調節機構に悪影響を及ぼし、「食べない→食べられない(拒食)→食べたら止まらない(過食)」といった摂食行動異常の悪循環に陥り、摂食障害の複雑かつ特異的な病態が形成されるものと考えらます。

摂食障害とは
摂食障害は大きく分けて神経性食思不振症(拒食症)と神経性過食症に分けられます。拒食症は、思春期の女子に好発し、身体像の障害、強いやせ願望や肥満恐怖などのため不食やダイエットの結果、著しいやせと種々の身体・精神症状を生じる一つの症候群です。しかし、近年、これらの患者において、不食やダイエットとともに、強迫的に多量の食物を摂取し続け、その後嘔吐しては体重増加を防ぐという過食型の患者が増加しています。一方、過食症は、自制困難な摂食の要求を生じて、短時間に大量の食物を強迫的に摂取しては、その後嘔吐や下剤の乱用、翌日の摂食制限、不食などにより体重増加を防ぎ、体重はそれほど減少せず正常範囲内で変動し、過食後に無気力感、抑うつ気分、自己卑下をともなう一つの症候群です。

摂食障害の症状
拒食症と過食症の主な精神症状、行動異常、身体症状を表1に示しました。このように両者は共通した多くの症状を有しています。

表1 摂食障害の精神症状、行動異常、身体症状

拒 食 症

過 食 症
精神症状      
  痩せ願望  必発(強い)  必発(必ずしも強くない)
  肥満恐怖  必発  必発
  身体像の障害  伴う  伴う
  病識  乏しい  病感を有する
  その他の精神症状  抑うつ、不安、強迫症状、失感情症など  抑うつ、不安、強迫症状、失感情症など
行動異常      
 摂食行動  食思不振、拒食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い、過食  過食、だらだら食い、絶食、摂食制限、隠れ食い、盗み食い
 排出行動  嘔吐、緩下剤の乱用、利尿剤の乱用  嘔吐、緩下剤の乱用、利尿剤の乱用
 活動性  過活動  低下
 問題行動  自傷行為、自殺企図、万引き、薬物乱用など  自傷行為、自殺企図、万引き、薬物乱用など
身体症状      
 体重減少  低体重  標準体重〜肥満
 月経異常  無月経  一部は無月経
 その他の身体症状  徐脈、低体温、低血圧浮腫、産毛の密生など  浮腫、過食後の微熱など


その他身体合併症として、拒食症では貧血、白血球減少、血清蛋白量の低下、高コレステロール血症、電解質異常、血清アミラーゼ値の上昇、低T3症候群、視床下部−下垂体系の機能異常、脳波異常、CTでの脳萎縮像などが知られています。過食や嘔吐を呈する患者では齲歯、唾液腺腫脹、けいれん、水中毒なども報告されています。過食症では手甲の吐きダコ、唾液腺腫脹、齲歯などをよく認めますが、稀なものとして嘔吐による食道破裂、気胸、過食による胃穿孔なども報告されています。
しかし、最も注意を必要とするのは電解質異常で、低K血症により心機能異常を呈し致死性頻拍性心室性不整脈を生じ、死に至ることです。

摂食障害の診断と治療
拒食症は、1)標準体重の80%以下の低体重、2)食行動の異常(不食、多食、隠れ食いなど)、3)体重や体型についてのゆがんだ認識(体重増加に対する極端な恐怖や痩せ願望など)、4)無月経などで診断されます。一方過食症については、1)一定の時間内(例えば2時間以内)に、大部分の人が食べるより明らかに大量の食物を摂取し、その間自制できないという過食を繰り返す、2)過食による体重増加を防ぐために嘔吐、下剤や浣腸剤、利尿剤の誤用あるいは激しい運動などを繰り返し行う、3)毎日の生活が体重や体型に過度に影響をうけている、などにより診断されます。
治療はこれらの病気についての正しい知識と理解を得ることから始まります。そして規則正しい食生活の再確立と体重の正常化をはかり、社会(家庭、学校、職場)でのストレス、心理的問題の解決を目指します。

おわりに
過度のダイエットにより拒食症や過食症に陥ることを説明しました。
したがって健康になるための、あるいは美しくなるためのダイエットについては、反動がくるほどのダイエットは厳に慎むべきで、規則正しい食生活と日常生活でストレスをためないように心がけたいものです。

参考文献
切池信夫:摂食障害一食べない、食べられない、食べたら止まらない
一医学書院、2000年