−現代人と病気−


第43回 人工関節はどこまで進歩したか

日時 平成12年6月20日 (火)
  午後6時10分〜午後8時
講師 格 谷 義 徳  講師
   (整形外科学)


始めに
 関節が痛くて動きも悪いというような、関節の障害に悩んでいる患者さんにとって、人工関節置換術は大きな救いとなっています。今回はこの人工関節の手術を良く理解していただくための話ですが、現在広く行われているのは膝関節と股関節の人工関節ですのでその2つを中心にお話しします。

1.正常の関節はどのような作りになっているのですか?
 例えば脚の付け根に当たる部分の関節である股関節を例にあげます。ここでは大腿骨の端の球のように丸い部分(大腿骨頭)が骨盤の受け皿の部分(臼蓋)にうまくはまり込んで、自由に動ける関節を作っています。骨の表面は軟骨が覆い、摩擦が非常に少ないような作りになっています。(図1)体重の何倍もの力を受けながら、健康な人では約70-80年もすり減らずに動き続けるのですから、機械としてみれば本当に素晴らしい出来映えですね。

2.人工関節の手術が必要なのはどのような場合でしょうか?
 人工関節が必要となる病気には変形性関節症、慢性関節リウマチ、大腿骨頭壊死などがあります。いずれも病気のために関節の形がいびつになり、関節の動きが悪くなったり、さらに痛みがひどくて日常生活に大きな支障をきたすような場合には、何らかの治療が必要になってきます(図2,3)。
 このような病気の場合、まずはできるだけ手術をせずに、飲み薬(痛み止め)や貼り薬、または関節への注射などを試してみるのが普通です。それと同時に体重を減らす努力をしたり、あるいは関節のまわりの筋肉を強くする練習をすることで、多くの場合は痛みが楽になり、普通の生活ができるようになります。また手術が必要であってもできるだけ患者さん自身の骨や関節を温存して(骨切り術など)治すように努力をします。しかし、その限界を越えた場合には、やむをえず人工の関節で置き換える必要がでてきます。

3.人工関節てどんなもの?
 日本で人工関節の手術が行われるようになったのは股関節は1960年代後半から、膝関節は1970年代始めからで、その後多くの改良がおこなわれ、現在ではいろいろな種類の人工関節が使われています。
人工膝関節一番よく使われているのは、特殊合金(コバルトクロムやチタン合金など)とプラスチック(超高分子量ポリエチレン)を組み合わせてできているものです。これらの部品を骨セメント(ポリメチルメタクリレート)を使って骨にはめ込みます。(図4)。
人工股関節膝関節と同じく特殊合金とプラスチックでできています。私どもの病院ではすり減りにくく、体の中で極めて安定であるセラミックを使った人工股関節を積極的に用いるようにしています(図5)。

4.骨セメントを使うとには色々な副作用があると聞きましたが?
 昨年骨セメントを使用して人工関節の手術を受けた際に、急に血圧が下がり死亡した患者さんのニュースが大きく報道されました。確かにセメントを使って人工関節の部品を骨内に入れるときには、多くの人で少しの間血圧が下がります。しかしこれは専門の麻酔医の協力を得て、十分注意して行えば、大事に至ることはほとんどないと言って良いでしょう。現に私たちの病院では毎年およそ150人がセメントを使った人工関節を受けていますが、それによる大きな副作用は起こっていません。

5.骨セメントを使用しない方が長持ちするという話しを聞きましたが?
 骨セメントを使用した人工関節と使用しない人工関節とどちらが長持ちするのかはまだ結論が出ていないといってよいでしょう。ただ膝関節に関してはセメントを使った方が長持ちするという意見が多くなってきているようですが、どちらがよいかは専門家の間でも議論のあるところです。いずれにしても現在はどちらでも安定した成績が得られるようになっているといってよいでしょう。

6.人工関節を入れるとどうなるの?
 人工関節に置き換えることにより、痛みはほとんどなくなります。関節の動く範囲は手術前と同じか、少し良くなる場合が多いのですが、手術後のリハビリテーションが大切です。(ただし正常な関節ほどは動きません)。さらに、痛みが取れてスムースに歩けるようになることによって、腰痛が軽くなったり、反対側の膝関節や足関節への負担が減少します。

7.人工関節はいつまでもつの?
 人工関節はその字のとおり人工のものですから、長い間に骨との間の固定がゆるんでしまうことがあります。また人工関節の部品が少しずつすり減っていき、その時にできる非常に細かい粉末が人工関節のゆるみの原因になることもわかってきました。後で述べますがばい菌が入ってしまうと人工関節を抜いてしまわなければならなくなることもあります。
 このように人工関節は永久的なものではありません。おおまかに言えば、一年で約1%の人がゆるんでしまうと覚えておいて下さい。ということは10年で10人に1人、20年で10人に2人がゆるんでしまう計算になります。しかし逆に言えば10年経っても10人に9人、20年経っても10人に8人は痛みもなく、普通の生活をしているとも言えます。この意味では非常に安定した成績が得られる手術であると言ってよいでしょう。

8.人工関節は若い人には入れられないと聞きましたが?
 前に述べたような色々な限界があることから、人工関節の手術は、一般に患者さんの年齢が60歳以上で、他に有効な治療法がない場合に勧めています。しかし慢性関節リウマチの患者さんの場合は、もっと若いうちに手術が必要になる場合もあります。また60歳以下でも、非常に変形や痛みが強い場合は、手術を行う例も増えてきています。前に述べたように20年間痛みのない生活が約80%の割合で期待できるとすればこれも一つの選択だと言えるでしょう。

9.人工関節の手術にはどのぐらいの入院が必要なのでしょうか?
 手術後は、約2日間はベッド上での安静が必要ですが、3日目よりベット上でのトレーニングを始めます。手術後約1週間から10日目より歩行訓練を開始し、術後4週から6週程度で退院できるのが普通です。

10.人工関節の手術後に気を付けることはありますか?
 普通の日常生活を送っていただいて結構ですが、椅子に座ったり、洋式トイレを使うといった、いわゆる洋式の生活の方が動作も楽で、手術後の人工膝関節にも望ましいでしょう。日常生活で注意しなければならないことは、ゆるみ、感染、脱臼です。

a:ゆるみ  
 人工関節にかかる負担を減らせば人工関節は長持ちします。
杖を使いましょう。
 術後、関節の痛みがなくなり、杖なしで立派に歩くことができても、外出の時や遠出の時には、杖、ステッキを持ちましょう。これは転ぶことを予防する上でも大切なことです。
体重(肥満)のコントロールをしましょう。
 体重が増えると、増えた分の重みがいつも人工関節にかかり、ゆるみの原因になります。

b:感染
 人工関節の手術を受けた方は、いわば体内に大きな異物が入っていることになり、バイ菌が入ると人工関節がまっ先に影響を受けます。滅多に起こる物ではありませんが大体100-200人に1人ぐらいの割合で起こるとされています。原因としては虫歯、風邪、膀胱炎、手足の傷(けが、水虫などの傷、巻き爪)などがあります。

c:脱臼
 関節がはずれることを脱臼と言います。これは膝関節ではほとんど起こりませんし、股関節でもめったにおこるものではありません。しかし脱臼すると激しい痛みが出て、足に力が入らなくなり、関節が動かなくなります。このようなときにはすぐに再手術が必要なこともあります。

11.これからの人工関節はどのようになるのでしょう?
 現在の人工関節は年齢が60歳以上の人に行うにはほとんど完成されたものであるとも言えますが、それより若い人に行うには、人工関節の骨への固定法や、関節部分のすり減りに問題を残しています。さらに長持ちする人工関節を求め、骨と結合したり自分の骨に置き変わっていく骨セメントの開発や、すり減りをより少なくする材質の研究が進められています。また膝関節では正座が出来ないことも大きな問題で、現在さらに曲がりを良くするようなデザインのものが徐々に実用化してきています。
 しかし、人工材料はやはり本物の骨、関節には及びませんので、人工材料を用いずに自分の骨で関節を再建することが、未来の大きな課題と言えるでしょう。いつかは手術をせずに注射1本で治る夢のような時代も来るかも知れませんが、まだあと20-30年は人工関節が一番安定した治療であり続けるでしょう。

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